スマート農業への関心が高まるなか、トラクターなどの農業機械には、走行を支援するさまざまな技術が導入されています。なかでも「ガイダンスシステム」と「自動操舵システム」は、農作業の省力化や走行精度の向上に活用される代表的な技術です。
両者はどちらもGNSSなどによる位置情報を利用できますが、主な違いは操舵を誰が行うかにあります。ガイダンスシステムは走行ラインなどの情報を画面に表示し、運転者が手動で操舵します。自動操舵システムは、位置情報などを利用して操舵操作そのものを自動化する技術です。
本記事では、ハンドル操作の自動化範囲や装置の構成、価格、測位精度の観点から両者の違いを整理します。導入時にどちらを選ぶべきかの判断材料も、あわせて紹介します。
両者の違いは、ハンドル操作を誰が担うかという点に集約されます。
ガイダンスシステムは、GNSSなどの位置情報をもとに、農業機械の現在位置や目標とする走行ラインを画面に表示する仕組みです。運転者は画面を確認しながら、自分でハンドルを操作して走行ラインを維持します。農研機構の調査では、ガイダンス利用時の走行精度は0.2〜0.3メートル程度とされています※。除草剤散布などの場面で、ガイダンスシステムが使われている例も報告されています※。
ガイダンスシステムでは操舵操作そのものは自動化されないことに注意が必要です。走行ラインを確認しながら、運転者が継続してハンドル操作を行う必要があります。製品によっては、走行ラインの表示に加えて、作業履歴や圃場情報を記録できるものもあります。
自動操舵システムは、GNSSなどの位置情報や機体の状態に関する情報を利用し、設定した走行経路に沿ってハンドル操作を自動化するシステムです。農研機構の調査では、自動操舵を使った作業で、目標経路からの偏差がRMS(二乗平均平方根)で0.03メートル程度に収まった例が報告されています※1。耕起や播種など、走行経路の精度が求められる作業で、自動操舵装置が使われています※1。農林水産省の資料には、自動操舵システムの導入で作業精度が高まり、作業効率が10〜25%程度向上した事例があると記載があります※2。
後付けタイプの自動操舵システムには、いくつかの構成があります。GNSS受信機やディスプレイ、コントローラー、専用のステアリング装置などを組み合わせ、既存の農業機械に取り付けます※5。運転者が操舵操作を行う負担を軽減できる点が特徴です。
自動操舵と無人運転は同じものではありません。農林水産省の資料では、自動化の段階が区分されています。運転者が搭乗して操作を行う段階と、運転者が搭乗せず監視のみを行う無人自律走行の段階は、異なる区分です※6。自動操舵システムを搭載していても、運転者による周囲や作業機の監視、安全確認は必要です。
名称の違いだけでなく、実際に使う場面でも複数の機能差があります。
最も大きな違いは、ハンドル操作を自動化できるかどうかです。
ガイダンスシステムでは、走行ラインなどの情報を画面で確認しながら、運転者がハンドルを操作します。目印が少ない場所でも走行経路を確認しながら運転できます。操舵そのものは手動操作となります。
自動操舵システムでは、設定した経路に沿ってハンドル操作を自動制御できます。特に大区画の圃場で長い直線作業を行う場合などに、操舵操作の負担軽減が期待できます。自動旋回に対応する製品も存在します。自動旋回まで利用できるかどうかは、機種やシステムの仕様を確認する必要があります。
自動操舵システムには、既存の農業機械に後付けできる製品も見られます。代表的な構成として、電動モーターなどでステアリングを操作するタイプや、車両の油圧系統を利用して操舵するタイプなどがあります※。
メーカーによって構成や名称は異なるため、「自動操舵システムは一律に3種類へ分類される」と考えるのは適切ではありません。導入時には、対象となるトラクターや作業機への適合性、取り付け方法、着脱のしやすさ、対応する走行方向などを確認することが重要です。製品によっては、対応条件を満たせば、複数の農業機械で共通の自動操舵システムを使い回せるものもあります。
※参照元:アグリポートWeb「イチからわかる、自動操舵トラクターの基本」(https://agriport.jp/agriculture/ap-12736/)2022年12月8日調査時点
ガイダンスシステムは、走行ラインを確認しながら運転できるため、目印が少ない大区画の圃場などで、走行経路を把握しやすくする目的に利用できます。除草剤散布などの場面で使われている例が、農研機構の調査でも報告されています※。
自動操舵システムは、操舵操作を自動化することで、直進作業などにおける運転者の負担軽減や作業精度の向上が期待できます。播種、施肥、耕うんなど、走行ラインの精度が作業品質に影響する作業では、導入効果を検討しやすいでしょう。
導入効果は、作業内容、圃場の形状、機械の仕様、運転者の技量などによって変わります。自動操舵を導入しても、すべての作業で同じ効果が得られるわけではありません。
自動操舵やガイダンスシステムを比較するときは、システムの種類と測位方式を分けて考えることが重要です。「ガイダンスだからD-GNSS」「自動操舵だからRTK」というように、一対一で対応するわけではありません。D-GNSSやRTKは位置を測定するための方式・補正方法であり、ガイダンスや自動操舵は農業機械を支援するシステムの機能を指します。
農林水産省が公開している「自動操舵システム」の情報では、価格帯の目安として40万円~250万円が示されています。ただし、これは掲載されている代表的な製品・サービスの価格帯であり、すべての製品を対象とした市場価格ではありません。実際の価格は、製品の構成、対応する農業機械、オプション、取付費用などによって異なります。※1
また、無人でほ場内を自動走行するロボット農機について、農林水産省の掲載ページでは1,000万円~1,500万円が価格帯の目安として示されています。一方、同省の別の資料では、資料作成時点の製品・サービスについて異なる価格帯や個別製品の価格も掲載されています。そのため、ロボットトラクターの価格を一律に示すのではなく、購入時にはメーカーの最新価格を確認する必要があります。※2
※参照元:農林水産省「自動操舵システム」(https://www.maff.go.jp/j/kanbo/smart/attach/pdf/products-341.pdf)2022年12月8日調査時点
GNSSを利用する農業機械では、衛星からの信号だけでなく、補正情報を利用することで測位精度を高めることがあります。
D-GNSSは、基準となる情報を使ってGNSS測位の誤差を補正する方式の一つです。農林水産省が公表した実証結果では、市販のD-GNSSと慣性計測装置を組み合わせた自動操舵機能付き田植機の例が紹介されています※4。自動操舵でもD-GNSSが利用される場合があります。
RTK-GNSSは、搬送波位相などを利用して高精度な測位を行う方式です。農研機構の調査では、RTK-GNSS対応の自動操舵装置を使った作業で、目標経路からの偏差がRMSで0.03メートル程度に収まった例が報告されています※1。実際の走行・作業精度は、補正情報の取得状況や衛星の受信環境、アンテナや機体の性能などによって変わります。
「RTKであれば常に数センチの精度で走行できる」という理解は正確ではありません。測位精度と、実際の農業機械の走行・作業精度は分けて考える必要があります。
選択するときは、初期費用だけでなく、作業内容、圃場条件、必要な精度、運転者の負担などを確認しましょう。
ガイダンスシステムは、まず走行ラインを可視化したい場合や、運転者自身による操舵で対応できる作業に向いています。
製品によって対応する測位方式や機能は異なるため、価格だけでなく必要な精度や機能も確認しましょう。
自動操舵システムは、長い直線作業などで操舵操作の負担を減らしたい場合や、走行ラインの精度を高めたい場合に導入を検討しやすい技術です。
ガイダンスシステムと自動操舵システムの違いは、ハンドル操作を運転者が担うか、機械が担うかという点にあります。価格は機能の範囲によって段階的に幅があり、測位精度も採用方式によって異なります。
導入を検討する際は、自分の圃場の規模や作業内容、かけられる費用を整理したうえで比較することをおすすめします。整理した内容をもとに、RTKやDGPSなど、自動操舵システムで使われる測位方式もあわせて確認すると、選択肢を絞り込みやすくなります。



※2025年8月29日調査時点。Googleで「自動操舵システム」と検索した結果の100位以内の公式HPの中から、日本国内で公表されているメーカーによる自動操舵システムの14製品の稼働速度を比較した最速値。IMUなどのオプション機能での速度も含む(編集チーム調べ)
|
ALLYNAV
|
FJDynamics
|
トプコン
|
|
|---|---|---|---|
| 製品名 | AllyNav AF305/AF718 自動操舵システム | FJD農機自動操舵システム | XD/AGS-2-SET・AES-35 |
| 初期費用 | 847,000円(税込)~ | 1,045,000円(税込)~ | 記載なし |
| 補正情報精度 | ≤±2.5cm | ≤±2.5cm | ±2~3cm |
| 速度 | 0.1~35km/h※デュアルIMUの場合 | 0.7km~12km/h (オプション:0.1km/h~) |
0.1km/h~25km/h |
|
ALLYNAV
|
FJDynamics
|
トプコン
|
|
|---|---|---|---|
| 対応可能経路 | ターン、直線、カーブ、曲線、Uターン、ピボット、90° | 直線、ピボット、平行カーブ、自動ターンA+ライン | 直進、枕地旋回、0.5m~小旋回性能(オプション) |
| オプション | ・リモコン&ハンドルボタン ・カメラ ・レベリングシステム |
・wifiカメラ ・物理ボタン ・ホール型センサー ・FAG独自RTK基地局 ・Bluetoothボタン |
・ホイールアングルセンサー(低速調整) ・枕地旋回機能 ・可変施肥機(散布マップ作成) ・Xlinks(ISOBUS非対応作業機でも制御可能) |
| ISOBUS対応 | 〇 | 〇 | 〇 |
| アップデート費用 | 無料 | 無料 | 無料 |
| サポート体制 | 連携先の代理店によるチャット・電話などのサポート | チャットサポート・遠隔サポート・訪問サポート | フリーダイヤルコールセンター(平日9時-17時) |
| 保証期間 | 2年保証 | 最大2年保証 ※有償にて5年間延長保証にも対応。 |
1年保証 |
| 導入実績数 | 世界中で累計35万台以上(2025年6月時点)※1 | 世界中で20万台以上 国内で6,500台以上 (2025年6月調査時点)※2 |
記載なし |
※1:参照元:AllynavAG公式HP(https://www.landingpage-synergy.com/Hs7mDRdM/)
※2:参照元:FAG公式HP(https://www.fagcorp.com/voice)