自動操舵システムの位置精度は、GNSS(衛星測位システム)の測位情報にどのような補強情報を組み合わせるかによって変わります。なかでも注目されているのが「CLAS(センチメータ級測位補強サービス)」です。
CLASは、準天頂衛星システム「みちびき」から補強情報を配信することで、GNSS単独測位よりも高い精度で位置を求めるためのサービスです。地上の携帯電話回線などを利用せずに補強情報を受信できるため、通信環境が不安定な地域での利用も期待されています。
本記事では、CLASの仕組みや精度、RTK・DGNSSとの違いを整理し、通信環境が不安定な地域で自動操舵システムを利用する際のメリットと注意点を解説します。
CLASは、内閣府が運用する準天頂衛星システム「みちびき」が提供する「センチメータ級測位補強サービス」です。
CLASそのものは自動操舵システムではありません。みちびきから配信される補強情報を、対応するGNSS受信機が衛星からの測位信号と組み合わせて処理することで、高精度な測位を行います。
CLASでは、国土地理院が全国に整備・運用している約1,300か所の電子基準点などの観測データを利用して補強情報を生成し、その情報をみちびきから配信します。電子基準点はGNSS衛星の信号を継続的に観測する施設で、国土地理院のGEONETを構成しています。
CLASの補強情報は、みちびきの「L6D」信号を使って配信されます。農機などに搭載したCLAS対応GNSS受信機がL6D信号を受信し、GNSS衛星から得た観測情報と補強情報を組み合わせて測位します。
そのため、CLASを利用するにはL6Dに対応した受信機が必要です。L6D信号を受信できるだけで自動操舵が可能になるわけではなく、対応するGNSS受信機やアンテナ、自動操舵システムなどの機器・ソフトウェアが必要になります。
CLASの大きな特徴は、補強情報を携帯電話回線などの地上通信網ではなく、みちびきから直接受信できることです。そのため、ネットワーク型RTKのように携帯電話回線を使って補正情報を受信する方式とは異なり、携帯電話回線が利用できない場所でも、CLASのサービス範囲内で衛星信号を良好に受信できれば利用できます。
一方、CLASにはサービス範囲や衛星の見通しなどの利用条件があります。また、建物や樹木による遮蔽、マルチパス、衛星の配置、電離層の状態などによって測位性能が影響を受ける場合があります。
CLASは、日本国内を中心に利用される測位補強サービスです。内閣府は、測量や建設機械の遠隔操作、情報化施工、IT農業などを活用例として挙げています。
農業分野では、自動操舵システムを搭載した農機での高精度な位置測位に利用できます。農林水産省の実証では、北海道岩見沢市でCLASを農機自動操舵に利用し、VRS-RTKとの比較検証が行われました。その結果、CLASはRTK測位には多少劣るものの、農機自動操舵として十分利用できることが確認されています。
※参照元:みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト(https://qzss.go.jp/info/archive/hitachizosen_230705.html)CLASの精度は、測位する対象が静止しているか移動しているかによって仕様が異なります。
内閣府のCLAS仕様では、水平・垂直方向の測位誤差について、静止体では水平6cm以下、垂直12cm以下、移動体では水平12cm以下、垂直24cm以下とされています。これらは95%の確率で満たすことを示す性能値です。
したがって、自動操舵のような移動体でCLASを利用する場合、「最大12cmの誤差が出る」という意味ではなく、「一定の利用条件のもとで、水平測位誤差が12cm以下となる性能を95%の確率で満たす」という仕様として理解する必要があります。
RTK-GNSSでは、代表的な方式で水平2~3cm程度の精度が示されています。そのため、代表的な性能値を比較すると、RTKのほうがCLASより高い精度を実現できるケースがあります。ただし、実際の精度は使用する受信機、衛星の受信環境、補正情報の品質、マルチパスなどによって変わります。
※参照元:みちびき(準天頂衛星システム:QZSS)公式サイト(https://qzss.go.jp/info/archive/hitachizosen_230705.html)CLASを含むGNSS測位では、衛星からの信号を良好に受信できる環境が重要です。
たとえば、樹木や建物などによって衛星からの信号が遮られると、測位に必要な衛星を十分に利用できなくなる場合があります。また、建物などで衛星信号が反射するマルチパスも、測位誤差の要因になります。
さらに、電離層の状態が大きく変化すると、GNSS信号の伝搬に影響し、測位性能が低下する場合があります。したがって、CLASの精度を考える際には、単純に「天候が悪いかどうか」ではなく、衛星の見通し、マルチパス、衛星配置、電離層などの測位環境を確認することが重要です。
自動操舵システムでは、CLASのほかにRTK-GNSSやDGNSSなどの補強技術も利用されています。
ただし、これらは完全に同じ分類の方式ではありません。CLASはみちびきによる測位補強サービス、RTKは基準局の観測情報を利用してリアルタイムに高精度測位する方式、DGNSSは基準局などから得た補正情報を利用して測位精度を向上させる方式として整理すると理解しやすくなります。
| 方式 | 代表的な精度の目安 | 補強情報の受け取り方 | 通信回線 |
|---|---|---|---|
| RTK-GNSS | 水平2~3cm程度の例 | 地上の基準局などから受信 | 方式によって異なる |
| ネットワーク型RTK | 数cm級 | 電子基準点などを利用して生成された補正情報を通信回線経由で受信 | 携帯電話などの通信回線が必要 |
| CLAS | 移動体・水平12cm以下(95%) | みちびきからL6D信号で受信 | 補強情報の受信に携帯電話回線は不要 |
| DGNSS | 方式や環境によって異なる | 基準局などから補正情報を受信 | 方式によって異なる |
このように、RTKとCLASの大きな違いの一つは、補強情報をどのように受け取るかです。
RTK-GNSSは、位置が既知の基準局と移動局でGNSS観測を行い、基準局の観測情報を利用して移動局の位置をリアルタイムに高精度で求める方式です。
基準局を現地に設置する一般的なRTKでは、基準局から移動局へ補正情報を無線などで送信します。この方式では、必ずしも携帯電話回線を必要としません。
一方、ネットワーク型RTKでは、国土地理院の電子基準点などの観測データを利用して位置情報サービス事業者などが補正情報を生成し、携帯電話などの通信回線を介して利用者へ配信します。国土地理院によれば、電子基準点のリアルタイムデータは配信機関を通じて位置情報サービス事業者に提供され、ネットワーク型RTK-GNSSなどに利用されています。
NTRIP(Networked Transport of RTCM via Internet Protocol)は、GNSSの補正情報などをインターネット経由で配信するために利用される代表的な通信プロトコルです。NTRIPそのものをRTKとは別の測位方式として扱うのではなく、ネットワーク型RTKなどで補正情報を配信するための仕組みとして理解する必要があります。
CLASでは、補強情報をみちびき衛星からL6D信号で受信します。そのため、ネットワーク型RTKのように携帯電話回線を使って補正情報を受信する必要がありません。
ただし、「衛星信号を受信できれば必ず利用できる」という意味ではありません。CLASのサービス範囲内であることに加え、必要な衛星を良好に受信できる環境や、CLASに対応した受信機などが必要です。
通信環境が不安定な農地では、ネットワーク型RTKのように携帯電話回線へ依存する方式より、CLASが適しているケースがあります。一方で、必要な精度や農作業の内容によってはRTKのほうが適している場合もあるため、通信環境だけでなく要求精度や機器構成も含めて判断することが重要です。
CLASの補強サービス自体は無償で利用できます。ただし、CLAS対応のGNSS受信機やアンテナ、自動操舵システムなどの導入費用まで無料になるわけではありません。また、製品によってはソフトウェアや保守、サポートなどに費用が発生する場合があります。
一方、ネットワーク型RTKでは、位置情報サービス事業者との契約や通信回線の利用などに費用が発生する場合があります。実際の料金体系はサービス事業者や製品によって異なるため、導入前に確認する必要があります。
そのため、「CLASなら自動操舵システムを安く導入できる」と単純に考えるのではなく、補正情報の利用料だけでなく、受信機や自動操舵システムを含めた初期費用・運用費用を比較することが重要です。
CLASの特徴を踏まえると、通信環境や求める測位精度によっては、自動操舵システムの選択肢の一つになります。ここでは、CLASを利用するメリットと導入前に確認したいポイントを整理します。
農地によっては、携帯電話の電波が弱かったり、通信状態が安定しなかったりする場合があります。
ネットワーク型RTKでは、補正情報を通信回線経由で受信するため、通信状態が測位サービスの利用に影響することがあります。
CLASは補強情報をみちびきから直接受信するため、携帯電話回線が利用できない場所でも、CLASのサービス範囲内で必要な衛星信号を良好に受信できれば、高精度測位を利用できます。
農林水産省が公表した実証事例でも、北海道岩見沢市でCLASを農機自動操舵に利用し、RTK測位には多少劣るものの、農機自動操舵として十分利用できることが確認されています。
CLASを利用するには、L6D信号に対応したGNSS受信機が必要です。
そのため、現在使用している自動操舵システムにCLASをそのまま追加できるとは限りません。既存システムを利用する場合は、受信機だけでなく、自動操舵コントローラやソフトウェアなどを含めてCLASに対応しているかをメーカーに確認する必要があります。
内閣府もCLAS対応製品を公開していますが、掲載情報は製品の対応状況を確認するための参考情報であり、実際に導入する際はメーカーに最新の対応状況を確認することが重要です。
CLASとRTKを比較するときは、「どちらが高精度か」だけでなく、実際の農作業でどの程度の精度が必要なのかを確認することが重要です。
播種や田植えなど位置精度が重要な作業でも、必要な精度は作業機、作業幅、走行速度、栽培方法などによって異なります。
そのため、CLASかRTKかを選ぶ際は、カタログ上の測位精度だけでなく、実際に使用する農機・作業機との組み合わせでどの程度の走行精度が得られるかを確認するとよいでしょう。
CLASとRTKには、それぞれ異なる特徴があります。
| 比較項目 | CLAS | RTK・ネットワーク型RTK |
|---|---|---|
| 補強情報 | みちびきからL6Dで受信 | 基準局などから受信 |
| 携帯電話回線 | 補強情報の受信には不要 | ネットワーク型では必要 |
| 代表的な精度 | 移動体・水平12cm以下(95%) | 代表例では水平数cm級 |
| 基地局 | 自前の基地局は不要 | 方式によって必要 |
| 利用料 | CLASの補強サービス自体は無償 | サービス・通信費等が発生する場合あり |
| 主な注意点 | 衛星の見通し、サービス範囲、対応受信機など | 基地局・通信環境・サービス契約など方式によって異なる |
通信回線を利用しにくい農地で高精度測位を行いたい場合は、CLASが有力な選択肢になる可能性があります。
一方、数cm級の高い測位精度を重視する場合や、すでにネットワーク型RTKの通信環境が整っている場合は、RTKが適しているケースがあります。
どちらが優れているかを一律に決めるのではなく、農地の通信環境、必要な精度、使用する農機・作業機、対応機器、導入費用、運用費用などを総合的に比較することが大切です。
CLASは、みちびきから配信される補強情報をGNSSの観測情報と組み合わせることで、高精度な測位を可能にする「センチメータ級測位補強サービス」です。
移動体では、公式仕様上、水平12cm以下・垂直24cm以下の測位誤差を95%の確率で満たす性能が示されています。RTKの代表的な数cm級の精度と比較すると、精度面ではRTKが有利なケースがありますが、CLASには携帯電話回線を使わずに補強情報を受信できるという特徴があります。
また、CLASの補強サービス自体は無償で利用できます。ただし、CLAS対応受信機やアンテナ、自動操舵システムなどの導入費用は別途必要です。
農林水産省の実証では、CLASを利用した農機自動操舵について、RTK測位には多少劣るものの、農機自動操舵として十分利用できることが確認されています。
自動操舵システムを導入する際は、「CLASだから安い」「RTKだから必ず高精度」と単純に判断するのではなく、自分の農地の通信環境、必要な測位精度、農機・作業機との互換性、導入費用や運用費用を確認しましょう。そのうえで、CLAS、RTK、DGNSSなどの方式を比較することが重要です。



※2025年8月29日調査時点。Googleで「自動操舵システム」と検索した結果の100位以内の公式HPの中から、日本国内で公表されているメーカーによる自動操舵システムの14製品の稼働速度を比較した最速値。IMUなどのオプション機能での速度も含む(編集チーム調べ)
|
ALLYNAV
|
FJDynamics
|
トプコン
|
|
|---|---|---|---|
| 製品名 | AllyNav AF305/AF718 自動操舵システム | FJD農機自動操舵システム | XD/AGS-2-SET・AES-35 |
| 初期費用 | 847,000円(税込)~ | 1,045,000円(税込)~ | 記載なし |
| 補正情報精度 | ≤±2.5cm | ≤±2.5cm | ±2~3cm |
| 速度 | 0.1~35km/h※デュアルIMUの場合 | 0.7km~12km/h (オプション:0.1km/h~) |
0.1km/h~25km/h |
|
ALLYNAV
|
FJDynamics
|
トプコン
|
|
|---|---|---|---|
| 対応可能経路 | ターン、直線、カーブ、曲線、Uターン、ピボット、90° | 直線、ピボット、平行カーブ、自動ターンA+ライン | 直進、枕地旋回、0.5m~小旋回性能(オプション) |
| オプション | ・リモコン&ハンドルボタン ・カメラ ・レベリングシステム |
・wifiカメラ ・物理ボタン ・ホール型センサー ・FAG独自RTK基地局 ・Bluetoothボタン |
・ホイールアングルセンサー(低速調整) ・枕地旋回機能 ・可変施肥機(散布マップ作成) ・Xlinks(ISOBUS非対応作業機でも制御可能) |
| ISOBUS対応 | 〇 | 〇 | 〇 |
| アップデート費用 | 無料 | 無料 | 無料 |
| サポート体制 | 連携先の代理店によるチャット・電話などのサポート | チャットサポート・遠隔サポート・訪問サポート | フリーダイヤルコールセンター(平日9時-17時) |
| 保証期間 | 2年保証 | 最大2年保証 ※有償にて5年間延長保証にも対応。 |
1年保証 |
| 導入実績数 | 世界中で累計35万台以上(2025年6月時点)※1 | 世界中で20万台以上 国内で6,500台以上 (2025年6月調査時点)※2 |
記載なし |
※1:参照元:AllynavAG公式HP(https://www.landingpage-synergy.com/Hs7mDRdM/)
※2:参照元:FAG公式HP(https://www.fagcorp.com/voice)